売上スリップ・アーカイブ集 2018/04〜2023/04

1200円+税
ときわ書房志津店時代に始まり、いまもどうにかこうにかしぶとく続いている売上スリップ掲示コーナーのアーカイブ集です。本書には2018年4月から2023年4月までの約130回分を収録しました。
B5版・132p・モノクロ
以下、はじめに的な文章を転載します。
ことの始まりは「スリップがなくなる?」という話からでした。スリップというのは新刊の本に挟まっている栞みたいなアレのことで、読者からすると少々不可思議な存在かもしれません(レジで抜かれちゃいますしね)。スリップは元々、インテルネッツのない時代に本屋が「この本売れたから補充よろしく!」と取次(問屋)や出版社に伝えるためのもので、1週間ごととかでまとめて郵送していたものでした(なのでよく見ると「売上カード」などと書かれていることがあります)。
しかし時代は移り変わり、もはや本来の用途ではほとんど使われることがなくなり、しかし久禮亮太『スリップの技法』(苦楽堂)にあるように、売上(=注文)カードとしてではなく、本屋の棚づくりに活用法を見出す動きもあり、私もこの本で書かれているような使い方をしていた書店員のひとりでした。
そんななかやってきたスリップレスの動き。たしかにもはや用済みの存在かもしれない、しかしだからこそ「新しい可能性」を見つけてもいいんじゃないか。なんてことを考えていたら降ってきたアイデアが「お客さんに公開してしまえばいいのでは?」というもので、それが形になったのが「最近志津で売れた本」というボードでした。
いまどんな本が売れているのか、あるいは本屋が推しているのはどんな本なのか、そういったことは意外と読者には伝わっていなかったりします。店頭にあるPOPとは違って、スリップの陳列は「実際に売れた本」であることが伝わります。この違いはもしかしたらなにか、いままでにはなかったものを生み出すかもしれない。そんなことを思ったかどうかはもうわからないのですが、ちょっといいこと言ってる気がするのでそういうことにしておいてください。
とにかくこのボードは、作っている本人がいちばん楽しんでやっていた/やっているものなのですが、想像以上に社会状況を表しているものになっているのではないか。つまりこのボードのアーカイブには、実はかなりの意味があるんじゃないか。そんなことを思ったので、ちょっとまとめてみることにしました。
志津時代のものはツイッターで「最近志津で売れた本」と検索をして出てきたものをスクショしたもの、つまり超絶アナログ(?)な手法でサルベージしたものです。なので解像度が低くて読めなかったり、そもそも検索で拾いきれていないものもあったりする、非常に不完全なものです。そしてなによりも、いまの自分ならこの本は選ばなかったな……とか、こういうことは書かなかったな……とか、つまり後悔や反省とともに見ることになるものもあったりします。しかし、それもまたひとつの歴史=過程として残しておきたいので、そのまま掲載しています。
このスリップボードはバイト先であるときわ書房志津店で始まったものですが、自分のお店である本屋lighthouseがスタートしてからは、場所を移して継続しています。悲しいことに(面白いことに)、志津のボードには「最近」と書かれているにもかかわらずほぼ毎週更新がされていて、逆に幕張のボードには「今週」と書かれているにもかかわらず更新が不定期です(最初は頑張っていたけど、徐々に1ヶ月に1回ペースに……)。その理由はいろいろあるのですが、あえてひとつあげるとするならば「書くことの責任が大きくなった」というものになります。本屋が社会状況を表しているのと同様に、本屋が社会を変えてしまっているということの重大さを、より強く感じるようになったからです。
このスリップボードの試みは、いろいろな本屋でやってもらいたいものでもあります。当然、売れる本も、そのなかから「選んで載せる」本も、本屋によって変わってきます。その集積が世に放たれ、つまり歴史のなかに残っていくことには、私たちが想像できるもの以上の意味や価値があるのではないか、そう考えています。このアーカイブに参加したい本屋がいたら、連絡ください。もしくは、勝手にやり始めてください。私たちの歴史=過去を、私たちの手で残していきましょう。
*本当はぜんぶフルカラーで載せたかったんですが、見積り価格を見たらそのあとの記憶がなくて急に次の日だったので、常に冷静沈着な私はモノクロにしました。
目次
志津編 6p〜
幕張編 84p〜
刊行日:2023年5月21日