2025年11月8日(土)
先日ニューヨークの新しい市長になったゾーラン・マムダニは、勝利演説でトランプに対し「Turn the volume up!(音量を上げろ)」と画面越しに言った。「Donald Trump, since I know you’re watching, I have four words for you(トランプ、あなたが見ているのはわかっている、だから4つの言葉を言っておく)」。
その日、私は『時間旅行者の日記』(藤岡みなみ/左右社)の著者インタビューをしていた。藤岡さんは私にこう言った。「戦争をなくすためにタイムトラベルをしている。だから日記を書いている」。正確には違うかもしれない。しかし私はそのように受け取り、これを書き残している。そしてそう話す藤岡さんの目と声は、本気で信じている者のそれだった。自明なこととして常にあることだからこそ、そのテンションに起伏はなかった。そんなことはないのかもしれない。でも私はそう思ったし、こうして書き残している。
音量を上げるのは、声を発する側ではない。あらゆる声はすでに/常に発せられている。小さく発するほかなかった声を増幅させること。雑音としか認識できていなかった声に反応するセンサーを手に入れること。すべて聞きとる側の問題だ。声はあらゆる場所に存在している。あらゆる方法で。
日記には過去のことが記されている。しかしそれは未来を志向/思考している。悲しかったことや苦しかったことが書かれたとき(あるいは書かれなかったとき)、私はそれが二度と起こらなかったりよろこびに変化することになる未来を欲している。楽しかったことや嬉しかったことが書かれたとき(あるいは書かれなかったとき)、私はそれをこれから何度でも味わいたいと思っている。
日記は他者=世界に向けて発せられた声となる。たとえ自分にしか読まれ得ないものだとしても、未来の自分はひとりの他者だ。他者に読まれた日記は声となり、音の波動が生じる。音は増幅され、倍音を足され、より遠くへと発せられる可能性にひらかれる。
もしくは、その日記は読まれず声になることはないのかもしれない。たとえだれかに読まれて声になったとしても、私的なことが書き連ねられているだけのそれを自分ごととして共鳴させる術を持たないかもしれない。声はただ通り過ぎ、消えていく。
それでも。いちど発せられた声はこの世界に残り続ける可能性を持つ。日記として書き残された声は、自分のなかで、他者のなかで、世界のなかで、何度でもよみがえる。戦争をなくすと本気で信じているその声は、何度でもよみがえり、伝播し続ける。世界を変えることができると本気で信じているあなたにも、信じたいと思っているあなたにも、いつかその声は届くだろう。
私は世界を変えられると本気で信じている。だから日記を書いている。この日記は、そういう目と声をしているだろうか。これを読むあなたの目と声もまた、本気で信じている者のそれになっているだろうか。そうであってほしいと思っている。だからそう書く。そして私は、あなたがこれを読んでいることを知っている。だから4つの言葉を記しておこう。Write down your voice.(あなたの声を書き残せ)
Write down your voice.
この世界を生き抜くための日記。そしてこの世界を変えるための日記。それを私たちの「声」で作っていくプロジェクトです。
やることはシンプル。日記を書くこと。ただそれだけ。あなたのやり方で、あなたのペースで、つまりあなたの「声」で、日記を書き残していきましょう。
本屋lighthouse店頭では、共有の日記を1冊用意します。あなたはそこに、あなたの日記を書き残していくことができます。その日起きたこと、考えたこと、こうあってほしいと願ったこと、そして思い出した過去のこと。それらすべては「声」となり、受信機の「音量を上げて」待っている誰かのもとへと届くでしょう。
2025年12月1日から1年間の日記が完成したら、そのまま「本」にして世に放ちます。この日記に参加したみんなの「声」が集まった1冊。いつかどこかで参照され、希望となるはずの日記本になることでしょう。
同時に日記本コーナーも展開します。たくさんの「声」を聴いて、元気になりましょう。自分の声を出す技術や勇気がまだ足りないと感じている人は、きっとよき参考書や友人になるはず。あわせてお楽しみください。

店頭で使用する日記について
・悪意のある書き込みはしないこと(なんてことは書かなくても大丈夫だとは思うけど)
・公開&刊行が前提の日記なので、他者のことを書くときは特に気をつけましょう(特定できないようにぼかすのを前提にしましょう)
・「いいこと」とか「うまい文章」とかを書かなくてはならない場所ではありません(あなたの「声」を馬鹿にする者を私は許さんぞ!)
・来店日のページに書くことは必須ではありません(過去のことを書いてもいい)
・同じ日に複数の人の日記が書いてあっても構いません(そのほうが楽しそう)
・観光地にあるメッセージ帳のようなものではありません(これは「自分の日記」だよ)
・使う日記は「aynoma plain diary 2026」です(購入もできます)
